■請求の準備
まず最初に、障害年金の請求を考えていらっしゃる方は、「障害年金の請求は難しくて大変」という覚悟が必要です。
1、情報収集
障害年金の受給には情報が欠かせません。
障害年金制度に関する情報はたくさんありますが、自分の欲しい情報をピンポイントに見つけることはなかなか難しいものです。
年金事務所や役所の国民年金係だけでなく、行きつけの医療機関に相談窓口があれば一度相談した方がいいでしょう。ただし、全ての方が障害年金の正確な知識を持っているわけではなく、場合によっては行政窓口担当者でさえ誤った回答をすることがあるため、複数の方に意見を求めご自身でも障害年金に関する情報収集を怠らないようにしましょう。
2、計画策定
障害年金の請求をご自身で行うのか、それとも支援者や専門家に依頼するのか、決断し準備を進めていく必要があります。それにより、今後ご自身がしなければならない準備が異なってまいります。
事後重症請求を目指す場合は請求が遅れることで障害年金の受給開始時期も遅れてしまうので、早め早めに準備を進めることも大事です。
社会保険労務士へ障害年金の請求代行を依頼する場合の費用について
専門家(社会保険労務士)に障害年金の請求代行を依頼する場合は費用負担が発生します。自分で全ての準備を行う労力・負担と費用の額が見合うかどうか、それに加えて、専門家に任せることで障害年金の受給の可能性が高まるという点も考慮して検討されるといいでしょう。
決定される等級にもよりますが、専門家に支払う費用の総額は10~30万円程度です(5年分遡及決定の場合は100万円程度になることもあるでしょうが、ご自身の手元にはその9倍以上が残ります)。その費用を払うことで、今後年間数十万円~数百万円の障害年金を受給できる可能性が高まることを考慮すれば、専門家に依頼されることをお勧めいたします。
(当事務所のように受給決定報酬制を採用している場合は、障害年金を受給できなかった時の費用負担総額は着手金のみです。ご自身で障害年金に関する情報を収集し、行政機関窓口へ何度も出向く手間を考えると決して高いものではございません)
3、年金記録(保険料納付状況)確認
受給資格のページにも記載しましたように、障害年金の受給のためにはクリアしなければならない要件がございます。中でも保険料の納付要件は、初診日の前日においてクリアしていなければ、後からではどうすることもできない大変シビアなものです。
障害年金の請求準備が佳境に差し掛かった段階で納付要件を満たしていないことに気付いてしまっても、それまでの苦労が無駄になってしまうだけです。早い段階で一度、ご自身の納付記録を確認しましょう。
■障害年金 請求の種類
○障害認定日請求(本来請求)
初診日から1年6か月経過した日である障害認定日時点の障害に対して請求します。
障害認定日に受給権が発生し、障害年金の支給は受給権発生の翌月分からです。
障害認定日の特例の場合には、特例に該当した日に障害年金の受給権が発生します。
○遡及請求
障害認定日より1年以上経過して障害年金を請求する場合は、遡及請求にあたります。
障害認定日時点での診断書と、請求日時点での診断書が必要です。(詳しくは診断書の項を参照)
障害認定日に受給権が発生し、障害年金の支給は受給権発生の翌月分からです。(ただし時効のため、最高で5年前までの分しか支払われません。)
障害認定日の特例の場合でも、特例に該当した日に遡及できます。
○事後重症請求
障害認定日時点では障害等級に該当しなかったものの、その後悪化して、障害等級に該当するようになった場合の請求方法をいいます。(何らかの理由で障害認定日時点の診断書が入手できない場合に、やむを得ず、事後重症請求を行う場合もあります。)
障害年金の受給権は、事後重症として裁定請求書を提出した日に発生します。
障害年金の支給は請求日の属する月の翌月分からです。そのため、障害年金の申請が遅れればその分の年金は受給できません。
事後重症請求には請求期限があり、65歳の誕生日の前々日(=65歳に達する日の前日)までに行わなければなりません。
○「初めて2級」請求
すでに障害(=前発障害)のある人が、その障害とは原因の異なる新たな障害(=基準障害)を負ったときに、その2つの障害を併合すると障害年金の2級以上になる場合、「初めて2級」による請求となります。
基準障害の初診日に加入していた年金制度より障害年金が支給されます。基準障害の初診日において、加入要件と納付要件を満たしていなければなりません。
前発障害の受給要件は問われません。受給権が発生するのは複数障害の併合の結果障害年金2級以上に該当したときですが、障害年金の支給は、請求日の属する月の翌月分からです。
65歳の誕生日の前々日(=65歳に達する日の前日)までに2級以上の障害に該当していれば、請求は65歳を過ぎていても可能です。
請求に必要な書類
障害年金の請求には、診断書だけでなく非常に多くの添付書類が必要です。
障害年金の認定は「提出された書類のみ」で審査が行われるため、どの書類も重要です。
細心の注意を払って準備する必要があります。
※PDFファイルで参照可能な書類もございますが、こちらはあくまで参考資料とし、実際の裁定請求では行政窓口より入手した用紙をご使用ください。
○裁定請求書
- 年金請求書(国民年金障害基礎年金)(様式第107号)
- 初診日に国民年金に加入していた方、第3号被保険者だった方、20歳前に初診日がある方
- 年金請求書(国民年金・厚生年金保険障害給付)(様式第104号)
- 初診日に厚生年金に加入していた方
○病歴・就労状況等申立書
発病から初診までの経過、その後の受診状況及び就労状況等について請求者が記載するものです。
診断書だけでは障害等級の決定が下しにくい場合には、診断書を補完して参考にされますので記載内容は非常に重要です。
審査決定をスムーズにするために、診断書の内容と矛盾がないように記載する必要があります。
○受診状況等証明書
初診時の医療機関が、診断書作成の医療機関と異なる場合に必要です。
年金事務所が配布する所定の用紙に、初めて受診した医療機関で記載してもらいます。
○受診状況等証明書が添付できない申立書
カルテの法定保存期間は5年のため、初診日から請求日までの期間があいている場合は、初診時の医療機関で「受診状況等証明書」に記載ができない場合があります。
その場合、「受診状況等証明書が添付できない申立書」を記載して提出します。所定の用紙は年金事務所で配布されます。
更に、下記の参考資料があればその写しを添付しなければなりません。
- 身体障害者手帳・療育手帳・精神障害者保健福祉手帳
- 身体障害者手帳等の申請時の診断書
- 生命保険・損害保険・労災保険の給付申請時の診断書
- 事業所等の健康診断の記録
- 母子健康手帳
- 健康保険の給付記録(レセプトも含む)
- お薬手帳・糖尿病手帳・領収書・診察券(可能な限り診察日や診療科が分かるもの)
- 小学校・中学校等の健康診断の記録や成績通知表
- 盲学校・ろう学校の在学証明・卒業証書
- 交通事故証明
- インフォームド・コンセントによる医療情報サマリー(診療や治療経過を要約したもの)
- 次の受診医療機関への紹介状
- 電子カルテ等の記録(氏名・日付・傷病名・診療科等が印刷されたもの)
- 交通事故や労災事故などのことが掲載されている新聞記事
*「受診状況等証明書が添付できない申立書」を提出したからといって、必ず初診日が認められるとは限りません。初診日を補完して証明できる資料がなければ、初診日確認不能のため請求が却下される可能性があります。
○診断書
請求の種類 | 必要な診断書 |
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障害認定日請求 | 障害認定日より3か月以内の現症が記載されたもの |
遡及認定日請求 |
・障害認定日より3か月以内の現症が記載されたもの
・裁定請求日前3か月以内の現症が記載されたもの
|
事後重症請求 | 裁定請求日前3か月以内の現症が記載されたもの |
「初めて2級」請求 |
・前発障害について裁定請求日前3か月以内の現症が記載されたもの
・基準障害について裁定請求日前3か月以内の現症が記載されたもの
|
複数の障害を併合して認定を受ける場合は、各障害ごとに診断書が必要です。
障害によっては次の書類の添付も必要です。
- 胸部X線フィルム(呼吸器疾患の障害)
- 心電図(循環器疾患の障害)
○参考様式(必要に応じて添付)
- 先天性障害(網膜色素変性症等):眼用
- 先天性障害:耳用
- 先天性股関節疾患用
- 糖尿病用
- 腎臓・膀胱の病気用
- 肝臓の病気用
- 心臓の病気用
- 肺の病気用
○その他添付書類(各請求者ごとに必要な添付書類は異なります)
- 年金手帳
- 住民票 (加給年金対象の配偶者・加算額対象の子がいる場合は世帯全員記載のもの。同一世帯でない場合は別途証明書必要)
- 委任状 (請求者本人以外が手続する場合)
- 年金加入期間確認通知書(共済期間がある場合)
- 所得証明書 (加給年金対象の配偶者・加算額対象の子がいる場合)
- 戸籍謄本 (加給年金対象の配偶者・加算額対象の子がいる場合)
請求の内容によって、必要なもの不要なものがございますので、事前に確認することが必要です。
提出する書類一式は必ずコピーを取りましょう!
障害年金や労災の請求を行う前に書類一式をコピーしておきましょう。特に「診断書」や医師が作成した証明書等のコピーは必須です。一旦提出した書類は不支給になっても返却されないため、もしコピーを取っていなかったら、何が原因で不支給になったのか分からず審査請求を行うにしても大変困難になります。
また、障害年金の更新の際に前回の診断書の写しがあれば、記載内容の比較ができるためある程度等級の予測をつけることもできます。
「提出する前にはコピーを取ること!」を忘れないようにしましょう。これは障害年金・労災請求だけなく、身体障害者手帳申請、精神障害者保健福祉手帳申請、傷病手当金の請求等、他制度を利用するときも同様です。
